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経営のバランスとCFO

  • 執筆者の写真: tsuruta
    tsuruta
  • 2020年10月9日
  • 読了時間: 6分

更新日:2020年10月28日

ある会社の説明会を聞いた。


大変いい業績だ。ここ数年二けたの増収増益である。ただ、一つ不思議な知らせがあった。ナンバー2であるCFOが期の途中で辞任するとのこと。お決まりの「次のステップに進めるためにご本人が辞めた」という話。オーナー創業者の会社ではよくある話だ。


そして、この創業社長は不覚にもつぶやいた。「『経理』『財務、調達』『監査』『IR』が出来るひとがCFOと思うのだが、なかなかいない。そういう人がいたら、CFOになってもらうことにしたい」と。要は、前のCFOを辞めさせたのだろう。経歴から見て、管理型の人であったのだと思われる。推測するに、経理や監査は出来ても、他は不十分、ということだろう。


よくある話だ。


言ってくれれば、そういう人は〝たくさん”知っている。旧松下電器の財務部門の課長クラスは、全員とは言わないが、少なくとも常に10人くらいは「経理」「財務」「監査」「IR」などがバランスよく出来たであろう。財務IRだけで100人くらいの組織であったが、入社から色々な科目の訓練をされ、10年経てば5割の人たちは間違いなく千億円規模の事業部のCFOは出来る能力は持っていた。パナソニックの財務部門を卒業して、世の中で活躍している人は多いのは自然の成り行きだ。


世の中の中小の上場会社では、やはりまだ管理型でIRなどが出来る人材が少ない。ただ、成長力はものすごい。ここは当時のパナソニックと違う。(今もかな?)


経理部門よりも財務部に汎用的な能力を身に付けた幹部職が多い理由は単純で、社内政治に巻き込まれることなく、外部(銀行や証券会社、アナリストや投資家)との接点で揉まれたからである。銀行、証券、そして格付機関など、各種の専門家から刺激を受け、そしてレベルの高い友人たちと必死で勉強し、世の中とのズレが少なかったからだ。そして、当たり前だが、良き先輩たちも多くいた。恵まれた環境だった。


財務IRの人間は、常に「組織運営」と同時に個人の能力アップを考えていた。そして意識は、「会社は社会の公器」ということを真ん中に置いた。訓練はOJTだけではなく事例を挙げて座学で徹底的に実践を学んだ。理論と実践の中でリスク感覚を自然に身に着けていった。


先輩社員といつも禅問答があり、組織を作るときに意識することは下記の10項目であることを叩きこまれた。これらは経験に基づいたもので、そこに至るまでの先輩たちの実体験は、いちいち面白かった。


①「世間の常識」を意識すること

②「連結」を意識した内部統制を。J-SOXが内部統制ではない。

➂「好き嫌い」で判断するな。事実を見る姿勢を貫け

④ 企業は「社会の公器」であるという認識を。IRは公平に

⑤「平時」と「有事」で対応のあり方を変えよ。

⑥「不作為」を未然に防ぐ仕組みを

⑦「隙」を作らず、「欲」に溺れず、「焦らせない」の部門運営を

⑧「お天道様は見ている」という意識を植え付ける。

⑨「道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である」 (二宮尊徳)

⑩ 儲ける組織を、そして、仲間を罪人にしない仕組みつくりを


未だに変わっていない。これらは私の財産として血となり肉となっている。


これら以外は、財務や管理に関連した専門的な知識である。10項目以外の事は難しくはない。ただ、専門用語が少し多いだけだろう。それらは瓶や缶に張ったラベルのようなもので、大したことではない。覚えてしまえば、常識の範囲のことばかりである。繰り返すが、大したことではない。ただ、前出の300億円規模の会社の創業社長が思うことは、経理や財務の専門知識は特別だという意識であろう。しかし、本当にCFOにとって大事なことはそういう専門知識ではなく、「リスク感度」である。それが才能として非常に大事だ。この訓練がなかったから、東芝、シャープ、三洋電機などが実質的に会社を倒産させたように組織に大きな危険をもたらす。イケイケの社長はそれが分からない。なぜなら、本当の苦境を経験したことがないからだ。経験するまで、危機の「予兆」や、その「リスクの本質」が分からないものだ。そして一見、無駄が多い「リスク管理」を軽視したがる。予兆があっても簡単に見過ごす。見ても見ないふりをする。自分が見たい風景を見ようとする。いざという時の準備をおろそかにする。そして、成長のためだけの資金調達やIRを中心に考えたがる。気持ちは分かる。無論、それらも大事だ。一日でも早く会社を大きくしたいのだろう。


しかし、世の中には見えない「リスク」はたくさんある。それらを嗅ぎ分ける感度は極めて大事だ。嗅ぎ分ける難度は、順風の時と逆風の時とでは全く違う。自信をもって言うが、順風の時は誰でもできる。見えないリスクはほとんど無い。良き時は、分かりやすく周りが揉み手ですり寄って教えてくれる。そして、仲間たちは助言も欠かさない。そういうものだ。しかし、逆風になり始めた時、社長一人で嗅ぎ分けなければならない。だが、一人でリスクをすべて嗅ぎ分けることは困難だ。ここに頼りがいのあるCFOの存在意義がある。


潮目が変わったときが勝負だ。一旦、逆風になると、リスクがそこら中にあるなか、誰も助けてくれない。そういう窮地に陥った子会社での経験を否と言うほどしてきた。国内子会社でも海外子会社でも同じだった。こういう経験こそが「リスク感覚」を育てる。


かわいい後輩には旅をさせろ、である。今、やっとその本意がよくわかる。子会社や左遷でつらい苦境の経験をしたCFOがいる会社は、なかなかつぶれない。それくらい厳しい経験が大事だ。机上の空論や専門用語を駆使する綺麗なプレゼンを書くだけのCFOは、いざという時、全く役に立たない。評論家みたいなことを言う。そういう経験を何度もしてきた。世の中のコンサルは、中小規模の苦しい事業経営そのものをした経験がない人が多い。年齢やMBAなどの資格だけでは適切な助言は出来ない。言うことが上滑りになる。人事などの研修でもそうだ。机上の訓練だけでは、限界がある。それでは「リスク感覚」など身に付かない。


ホンダの本田宗一郎と藤沢武夫、パナソニックの松下幸之助と高橋荒太郎。歴史に名前を残した名経営者の横には、必ず名CFOがいた。当時はCFOとは呼ばず、参謀とか大番頭などと言っていた。船で言うと「船長」(キャプテン)と、羅針盤を読む「航海士」がいるようにこのバランスがないと、荒波を渡れない。不況や企業の危機の真ん中にいるとき、自分がどこにいるかが大切だ。自分の「位置」が見えなくなると、船は沈没する。


今、コロナ禍の中で自社の位置が見えていない経営者が多い。話をしていると、旅行業界やレストラン業界の経営者などが、特にそうであろうか。政府の支援策で調子の良いところは自信過剰であったり、また、中小は目先の状況の悪さで極度に保守的になっていたりする。


本当のバリュー投資家にとっては、経営の安定性が大事だ。これは「リスク管理」に関する能力を前提として、同時に成長の爆発力を見ているのだ。常に、この2つのバランスのなかでしか本当に大きな成長は育まれることはない。これを忘れてはならない。片方だけしか優れていない会社には、決して良き人材やお金は寄ってこないものなのだ。従って、波に乗るチャンスも遅い。


揺れる船のなかから宮城の松島を見ながら、そういうことを考えた。








 
 
 

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